映画のクラウドシーン(群衆シーン)は、長らくCGアーティストの手作業の集積だった。何百人もの背景キャラクターを一体ずつモデリングし、アニメーションを付け、ライティングを合わせる。ところが、VFXスタジオのUnion VFXとボリュメトリックキャプチャ専門のClear Angle Studiosが共同開発した新パイプラインは、このプロセスの前提そのものを覆そうとしている。
「数百万の点」でできた俳優
使われている技術はGaussian Splatting(ガウシアン・スプラッティング)と呼ばれる手法だ。40台のカメラを備えた専用の体積キャプチャリグで、実際の演者の演技を秒間最大60フレームでスキャンする。髪の揺れや布地のしわといった、CGでは再現が難しかった微細な動きまでそのまま点群データとして記録される仕上がりは「信じられないほどフォトリアル」と評される。
これだけなら「精巧な3Dスキャン」の延長に聞こえるかもしれない。だが今回の技術的な核心は別のところにある。
「リライト」できることの意味
従来のGaussian Splats技術には弱点があった。学習時・レンダリング時のライティングを後から変更しようとすると、映像にアーティファクト(不自然なノイズや破綻)が出やすかったのだ。つまり「キャプチャした時の光」に縛られたまま使うしかなく、実際の撮影シーンの照明に合わせて群衆を配置するのが難しかった。
Union VFXのソリューションは、標準的なCGレンダラーを通して、通常のCGワークフローと同じライティング設定でSplatsを照らせるようにした。さらに画像セグメンテーション技術で衣装の色や素材を変えられるため、同じ一人の演者からでも見た目の異なる群衆を量産できる。撮影は実写、仕上げはCG同然に自由——両者の境界線が、技術的な制約としてではなく選択の問題になった。
CG業界にとっての意味
これはアーティストの仕事を単純に奪う話ではない。むしろ、これまで人手による繰り返し作業だった「群衆の量産」からアーティストを解放し、演出やライティングの判断により多くの時間を割けるようにする技術、とも読める。実際、業界では2026年を通じてリアルタイムレンダリング・AI・USD・クラウド活用といった要素がVFXパイプラインの主要トレンドとして語られてきた。Gaussian Splatsの「撮影即アセット化」は、その延長線上にある動きだ。
一方で、これは後述するゲーム業界の生成AIに対する視線の変化とも無関係ではない。「本物らしさ」を作るコストが劇的に下がるとき、その恩恵を受けるのは誰で、割を食うのは誰か。技術そのものは中立でも、それが現場にもたらす分業の変化は、常に議論の対象になる。
